RECORD 001–006

Petrichor

/ˈpɛtrɪkɔː(r)/ペトリコール

n.雨が乾いた地面に触れたとき、石や土から立ちのぼる匂い。ギリシア語の petra(石)と ichor(神々の血)を合わせて、一九六四年に作られた語。

  1. 001Base Note基底香C12H22O
  2. 002The Dry Spell乾燥期間放出 停止
  3. 003The Accord三層0s → 8h
  4. 004Threshold閾値4–10 ng/L
  5. 005Addressee宛先1964 → 2020
  6. 006Colophon奥付

丁数背貼り受入検印

RECORD 001 · TOP · 04.0s

Base Note


構造式

CH₃ OH CH₃
IUPAC
(4S,4aS,8aR)-4,8a-dimethyl-1,2,3,4,5,6,7,8-octahydronaphthalen-4a-ol
同定
PubChem CID 29746

記録 001

雨の匂いと人は言うが、雨そのものはほとんど無臭である。匂い立っているのは地のほうだ。

長いひでりののち、
最初の一粒が地に触れる。

記録番号
001
物質
GEOSMIN
分子式
C₁₂H₂₂O
分子量
182.30
CAS
19700-21-1
供給
Streptomyces spp.
採取地
採取日
気温
湿度
宛先

HEART · 90.0s · 記録 002

The Dry Spell


状態
乾燥
放出
停止
蓄積
継続
経過日数
前回降水
備考
BUBBLES FORMED INSIDE THE RAINDROP 1–3 mm 落下 空気膜 ~1µm 衝突 気泡 数十µm 気泡 ~10 m/s 放出 JOUNG & BUIE, NAT COMMUN 6, 6083 (2015)
JOUNG, GE & BUIE, NAT COMMUN 8, 14668 (2017)

旱 002

降りつづければ、放つものはやがて尽きる。そのあとの雨は、ただの雨である。

旱のあいだ、土は放つべきものを抱え込みつづける。そこへ雨粒が落ちる。粒は地に潰れ、抱えていたものを大気へ運ぶ。

ACCORD · 3 LAYERS · 記録 003

The Accord


蒸発係数宛先
top< 15human
heart15 – 60human
base> 60human

蒸発係数 · Poucher の分類 · 1–100

層 003

調香は、香料を持続の長さで組む。数分で失われる層、数刻をとどまる層、一日を越えて残る層。三つで一つの匂いになる。
 雨のあとに立つ匂いも、一つの物質ではない。この帳面は、それを三つの層に分けて記した。

経過 · 0s → 8h · 対数

塗り = 在る / 白 = 文献に幅がある区間 / 8h は軸の端。base はここから先も続く
宛先 = この記録が、その層を誰に向けたものと記したか

THRESHOLD · ng·L⁻¹ · 記録 004

4–10 ng/L


閾値 004

これほど薄い濃度で人の鼻が捉えうる物質は、多くない。よりにもよって、その鋭さは土の匂いに対して備わっている。

人がこの分子を捉える濃度は、水一リットルにつき四から十ナノグラム。おおよそ千億分の一の桁である。

報告値
4–10 ng/L
最小報告
3.9 ng/L
自家測定

感覚パネル試験。文献により幅がある。本記録では測定していない。

記録 005 · 1964 → 2020

Addressee


命名
1964  ·  Bear & Thomas, Nature 201, 993–995
供給
Streptomyces spp.
宛先
human
訂正

宛先 005

呼ばれていたのはトビムシであって、こちらではない。この匂いに petrichor の名が与えられたのが一九六四年、宛先が判明したのが二〇二〇年。人は五十六年のあいだ、他者に宛てられた合図を、自分のものと取り違えて嗅いでいた。

この匂いを放っているのは、土中の放線菌である。胞子を散らすためにトビムシを誘い、その体と糞に胞子を託す。

001BASE NOTE基底香
002THE DRY SPELL
003THE ACCORD
0044–10 ng/L閾値
005ADDRESSEE宛先
006COLOPHON奥付

本記録の宛先欄は五十六年にわたり誤っていた


本記録は作品である。記載は出典に拠り、誤りは訂正として残す。