RECORD 001 · TOP · 04.0s
Base Note
構造式
- IUPAC
- (4S,4aS,8aR)-4,8a-dimethyl-1,2,3,4,5,6,7,8-octahydronaphthalen-4a-ol
- 同定
- PubChem CID 29746
記録 001
雨の匂いと人は言うが、雨そのものはほとんど無臭である。匂い立っているのは地のほうだ。
長い旱ののち、
最初の一粒が地に触れる。
- 記録番号
- 001
- 物質
- GEOSMIN
- 分子式
- C₁₂H₂₂O
- 分子量
- 182.30
- CAS
- 19700-21-1
- 供給
- Streptomyces spp.
- 採取地
- —
- 採取日
- —
- 気温
- —
- 湿度
- —
- 宛先
- —
HEART · 90.0s · 記録 002
The Dry Spell
- 状態
- 乾燥
- 放出
- 停止
- 蓄積
- 継続
- 経過日数
- —
- 前回降水
- —
- 備考
- —
JOUNG, GE & BUIE, NAT COMMUN 8, 14668 (2017)
旱 002
降りつづければ、放つものはやがて尽きる。そのあとの雨は、ただの雨である。
旱のあいだ、土は放つべきものを抱え込みつづける。そこへ雨粒が落ちる。粒は地に潰れ、抱えていたものを大気へ運ぶ。
ACCORD · 3 LAYERS · 記録 003
The Accord
| 層 | 蒸発係数 | 宛先 |
|---|---|---|
| top | < 15 | human |
| heart | 15 – 60 | human |
| base | > 60 | human |
蒸発係数 · Poucher の分類 · 1–100
層 003
調香は、香料を持続の長さで組む。数分で失われる層、数刻をとどまる層、一日を越えて残る層。三つで一つの匂いになる。
雨のあとに立つ匂いも、一つの物質ではない。この帳面は、それを三つの層に分けて記した。
経過 · 0s → 8h · 対数
塗り = 在る / 白 = 文献に幅がある区間 / 8h は軸の端。base はここから先も続く
宛先 = この記録が、その層を誰に向けたものと記したか
THRESHOLD · ng·L⁻¹ · 記録 004
4–10 ng/L
閾値 004
これほど薄い濃度で人の鼻が捉えうる物質は、多くない。よりにもよって、その鋭さは土の匂いに対して備わっている。
人がこの分子を捉える濃度は、水一リットルにつき四から十ナノグラム。おおよそ千億分の一の桁である。
- 報告値
- 4–10 ng/L
- 最小報告
- 3.9 ng/L
- 自家測定
- —
感覚パネル試験。文献により幅がある。本記録では測定していない。
記録 005 · 1964 → 2020
Addressee
- 命名
- 1964 · Bear & Thomas, Nature 201, 993–995
- 供給
- Streptomyces spp.
- 宛先
- human
- 訂正
- —
宛先 005
呼ばれていたのはトビムシであって、こちらではない。この匂いに petrichor の名が与えられたのが一九六四年、宛先が判明したのが二〇二〇年。人は五十六年のあいだ、他者に宛てられた合図を、自分のものと取り違えて嗅いでいた。
この匂いを放っているのは、土中の放線菌である。胞子を散らすためにトビムシを誘い、その体と糞に胞子を託す。
本記録の宛先欄は五十六年にわたり誤っていた
本記録は作品である。記載は出典に拠り、誤りは訂正として残す。